■第13回まちライブラリーオーナーズフォーラムレポート
まちライブラリーのオーナーたちがオンライン上で顔を合わせて、アイデアや悩みを共有する第13回オーナーズフォーラムを2022年12月13日に開きました。
まちライブラリー1箇所の事例発表ののち、参加したライブラリーオーナーの皆さんそれぞれの2022年の1年の活動を振り返り、礒井さんに運営のアドバイスをもらいながら、これからやってみたいことを共有し合いました。
■事例発表:心音Books(愛知県・名古屋市)
オープンまでの経緯:支援者と一緒に本棚を作りながらお店が完成
村田享さんは、2022年10月に名古屋市千種区に犬と猫の専門本屋心音Booksをオープンし、まちライブラリーに登録しました。
村田さんは、お仕事を退職後、大好きな犬猫の保護活動をしたいと考えていました。大きな本屋に行っても、犬や猫を扱った本の品揃えが少ないことや、犬や猫に関する欲しい本が検索しにくいこともあり、犬と猫の専門のリアル本屋を作って、その利益の一部を認定団体に寄付することで保護活動をサポートすることにしました。本で学んでもらいたいという思いはあったものの、ニッチではないかと不安もあったそう。2022年1月に静岡県焼津市の「みんなの図書館」を視察したことで、一箱オーナー制度を取り入れれば、自分がいいなと思う本を見つけてもらえる空間と犬と猫と人とまちが繋がれる場所を作れると思い、オープンに至りました。
書店名の「心音」の由来は、こどもやペットの心音を確認するところからきており、規則正しい心臓の鼓動は平和の暮らしのリズムであり、全ての命が尊重される世の中であるように、いう思いを込めています。
10月10日のオープンに向けて、クラウドファンディングを行いました。なるべくお金をかけないで内装工事をするため、届いた資材を自分たちで部屋まで運んで本棚をつくったり、ガラス張りの扉をつくったりしました。お店の電飾の看板のデザインも名古屋市千種区にある椙山女学園大学の学生が作ってくれました。
心音Booksでは本棚オーナーさんがたくさんいるため、本の登録サイト・リブライズの有償版を使い、利用者には利用者カードを300円で作成してもらって、一箱本棚の管理や貸出に活用しています。
さまざまな個性を持つ一箱本棚オーナーたち
108作った一箱本棚のうち、50ほどが埋まっており、本棚の使い方は、本を1冊以上おくことを条件に、本棚の作り方は本棚オーナーさんにお任せしています。犬や猫の保護活動をしている方だけでなく、本の著者が本棚オーナーになったケースや、靴下を販売するオーナーさんなど、クラウドファンディングで本棚オーナーになった方を含め、個性的な本棚が広がっています。
一箱本棚オーナー制度の効用と課題
一箱本棚オーナー制度は、静岡県焼津市の商店街で「みんなの図書館」を運営する土肥潤也さんが始めた、有料で本箱を貸す民間図書館の運営の仕組みです。そこでいつも疑問になるのは、月2000円〜3000円のお金を払ってまで自分の本箱を持つのはなぜか?という点で、土肥さんと礒井さんでよく話をするそうです。
一箱オーナー制度の効用は、部屋中が本棚になるので、たくさん本があることで人が集まりやすいこと、お金を払ってオーナーになるので関係人口が増えて場の参加意識が高まることにあります。一方で、お金を払っていないと仲間に入りにくいという課題があり、クローズドな場所にするには向いているが、オープンな場所にしたい場合、選ばれた人やいわゆる「意識高い」人たちだけの場所になりかねないことが懸念点です。意識を持ってその場所を運営する側に対し、利用者は仲間作りではなく、単に「近いから」「本が貸りられる」などの利便性を重視しているだけの場合もあります。場づくりとは、やる側と利用する側の両方が相まって場づくりになるので、両者の思いのバランスを意識する必要があると礒井さんは指摘しました。
“コモンズの悲劇”を起こさないために
加えて、礒井さんからは、コモンズに対する問題点の共有がありました。トッド・ボルさんが始めたリトルフリーライブラリーは世界中に約11万箇所に増えていますが、作るコストがかかるため、登録が6000件を超えたときに登録料をとることにしたそうです。まちライブラリーも、全国のまちライブラリーが1000箇所に迫るほど増えてきた中、100箇所だったときとは違い、収支を回していかないと本体を続けていくことが難しくなる課題があります。
同様の課題は、まちライブラリーでも使っている本の登録サイト・リブライズにもあてはまります。リブライズはボランティアベースの個人による運営で、利用者の母数が増えれば、運用者の負担、サーバーの負荷が増えて基礎インフラが立ち行かなってしまいます(いわゆる「コモンズの悲劇」と呼ばれる現象)。
まちライブラリーは誰でも参入できることを大事にして、間口を広くしておきたいと登録料などを取らない方針で続けてきました。全国各地の小さなライブラリーができていき、社会の中で影響力を持ち、社会的な活動や共通の社会インフラとして、コモンズに育っていくのか? を試す壮大な社会実験といえます。まちライブラリーがコモンズになりうるのかはオーナーさん一人ひとりの力によるところもあり、今後のオーナーたちの活動とその展開を楽しみにしたいと礒井さんは述べました。
■2022年の1年の活動を振り返り
後半は、参加のライブラリーオーナーさんの1年の活動をそれぞれお話しいただき、礒井さんからコメントやアドバイスを送りました。
・船旅まちライブラリー(宮崎県宮崎市):
宮崎と神戸を繋ぐフェリーの中にまちライブラリーを準備中。1000冊ほど集めようと思っている。12時間運行するフェリーの中で、お客様に楽しんでもらえるようにとまちライブラリー登録した。
・おとや音楽教室(兵庫県豊岡市):
音楽教室の中で本を楽しんでもらいたいと開設。おやこ向けのまちライブラリーのイベントをこれからしてみたい。
・hug cafe(北海道札幌市):
ワーキングスペースや子育て世代向けにイベントをやっているコミュニティースペース。大通りや都会にないので、知っている人は来るが、もっと他の人に気軽にふらっともっときてもらえるよう、みんなに知ってもらえたらと思う。
まつぼっくり文庫(岐阜県大垣市):
・去年7月に巣箱のまちライブラリーを家の前に置いたら、近所の人が立ち寄って常連が増えていき、町内会長とつながり地域活動をすることになった。巣箱を置いたことをきっかけに、いろんなことにつながり、驚いている。地域活動では古民家を借り、絵本カフェを開き、多世代の交流の場になっている。
ほしのたに文庫(神奈川県座間市):
・拠点ができたことで、学生団体が無料の学習サポートの会をしたり、発達障害の親の会や、仲間が新たにまちライブラリーを作ったり、活動が広がった。普通にしていたら知り合えない人と出会ったり、まちなかで知り合った親子連れや子どもと挨拶したりすることは、ライブラリーを始める前は考えられなかった。地域の中でのいい経験が増えた。
ちいさいおうち(静岡県富士市):
・巣箱を2022年12月に開始。他のライブラリーを見て、自分でも地域に何か貢献できないかと思い、まずは家の前に巣箱を置いてみた。近所の人がのぞいてくれている。巣箱の前に、かりんを置いていたら、来た人が後日「持って帰ったよ」と声をかけてくれた。普段、家にいないので、巣箱を通して関わりを持てたらと思う。
ひびうた文庫(三重県津市):
・開設から3年目。今年は蒔き本棚の取り組みをしたところ、人気で利用者が本を持ってきてくれ、利用者が楽しんでくれた。2023年は、2階にあったブックハウスが別の場所にあるカフェに移転。まちライブラリーを2階に拡大して、本棚が増える。
本のある喫茶店うのん(奈良県):
・2022年7月にオープンした喫茶店。亡くなったお父様が研究していた大和の民俗学の本をおいて勉強の場にしてもらえたらと思っている。研究の本をデジタル書籍にして販売しようと模索し、準備中。
ウィズあかし(兵庫県明石市):
・2022年7月にオープン。公共施設ということもあり、収益は目指しておらず、月1000円で一箱本棚オーナー制度を取り入れ、人が集う場、本を手に取りやすい環境、本棚オーナーの自己表現の場に使ってもらっている。人気の棚は貸し出しが多い。
ライブラリーBAR昭和Factory(大阪府大東市):
・2022年10月のマイクロライブラリーサミットで出会った埼玉県鶴ヶ島市で「つるがしまどこでもまちライブラリー」の活動をしている砂生絵里奈さんの著書を読み、大東市で地域ぐるみのまちライブラリーの活動に広げていきたいが、どうしたらいいか相談したい。
ナナ文庫(横浜市):
・2年前に、地域文庫をやりたい人がおり、近所の男女共同参画センターから本を借りて本の活動をしていた。高齢者カフェをやっており、認知症と介護の本を揃えた。教育や女性問題のテーマの月刊紙を発刊している事務室もカフェの中にあり、本もたくさんあるが、多様な層の利用者が出入りするため、どんな本をおくか悩んでいる。
それぞれのライブラリーに対して、礒井さんからコメントやアドバイスが送られましたが、全体に共通する点を下記にまとめました。
1、誰に来てもらいたいのか整理
一般に場を開き、誰でも入って欲しいのであれば、外に巣箱をおいて目を引くアイコンを作ると良い。誰向けにするかでやるべきことが違ってくるので、利用者像を意識的に整理して活動するといい。
2、場とコミュニティーの形成
コミュニティースペースとして活動する場合は来る人の同質性が高くなりやすい。そのこと自体は悪いことではないが、いろんな世代や他の人に来て欲しいのであれば、自分たちが出している雰囲気が、特定のグループ向けになっていないかを確認する必要がある。
またコミュニティーは形成するものではなく、自然に形成されるもの。まちライブラリーは道具ではなく、まちライブラリー自体が「本に共感して集まってきた人」によって成立していくので、どんなものになるか誰にもわからない。スタッフがどう人と接していくかでコミュニティ自体が変わっていくので、そこを意識するといい。
3、「遊び感覚」の大切さ
まじめなオーナーさんは、きっちり、まじめに、真剣にやりだしてしまう傾向がある。真剣に考えて息が詰まると暗い顔になってまちライブラリーの良さを殺してしまう。まちライブラリーは、遊び感覚を持って楽しんでやってほしい。
4、個人の力で出来ることを
まちライブラリーは「やったらいい」と礒井さんからオーナーたちに勧めたことは一度もないが、全国に広がっている。活動にシンパサイズした人、共感共鳴した人が始めてくれている。一箱オーナー制度や巣箱、多様性を生みながら、まちライブラリーも累計980箇所以上、全国に広がった。その人が内発的にまちライブラリーをやりたいと思わない限りは広がらないので、まちにライブラリーを地域に増やしていきたいなら、公に頼りすぎず、個人として対等な関係で話せる仲間を徐々に作っていくとよい。
5、目の前の必要な人と共感しあう
たくさんの人に来てもらいたいと数を追うと、結果的にたくさんの人を呼べない。そこに来てくれる目の前の自分に必要な人と会い、その人とじっくり話していく方が良い。単に本を置くだけではなく「人との間にシンパサイズが生まれ、つながる」のがまちライブラリー。
今回のオーナーズフォーラムでは、様々なオーナーさんの取り組みや悩みに礒井さんが答える形をとりながら、まちライブラリーを運営していくにあたって大切なことを共有しました。また皆さんの近況から、試行錯誤しながらも、ライブラリーを始めたことで起こった思いもよらない出会いや、楽しさなどが伝わってきました。
次回以降も、まちライブラリー提唱者の礒井さんからのコメントを交えつつ、みなさんのライブラリー活動の様子を情報交換できたらと思います。
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