「まちライブラリー」の活動が本格化して10年が過ぎました。商業施設、公的施設、飲食店、個人宅……。規模も運営方法も様々なまちライブラリーが各地に生まれ、現在830カ所余りに上ります。ただ、コロナ禍によって様々な影響が出ています。そのような中で、オーナーたちがそれぞれの工夫や抱えている課題などを共有しながら、より豊かな活動を目指していこうと2021年2月に第1回オーナーズフォーラムをオンラインで開催しました。
事例紹介では、成り立ちや運営方法などがそれぞれ異なる個性豊かな4軒のまちライブラリーが登場。各地のオーナーやスタッフら約30人が取り組み内容に聴き入り、終了後は各オーナーに質問するなどの交流を楽しみました。当日の模様のレポート、どうぞお読みください!
出張型で展開 まちライブラリー=人がつながる場所
事例紹介①軒先珈琲×まちライブラリー(千葉市)
発表者 佐藤紘孝さん
イベントに出店するとき限定で、カフェ付きの出張型ライブラリーを開いています。まちライブラリーには2015年から登録しました。絵本に出てくるお菓子を親子で作るワークショップを行うなど、僕がまちライブラリーを開く目的は、色んなことをやりたい人がつながる場所を作ることです。本は人を集める「フック」ですね。最近では、コーヒー豆を焙煎することが趣味として人気が出てきたので、「軒先珈琲シェア焙煎所」を始めました。今後は焙煎体験で得た収入でまちライブラリーを無料で開放するという仕組みを考えています。
自治体施設 2年で寄贈本1300冊超 住民とのコミュニケーションも豊かに
事例紹介②なんぶまちライブラリー(大阪府守口市)
発表者 福山京子さん
高齢者と子育て世代が多いエリアで、守口市が運営するコミュニティセンターの中で活動しています。市が行った住民アンケートでは、センターに図書室は不要という結果だったのですが、始めてから約2年で寄贈本は1300冊ほどに上り、住民に親しまれています。借りる冊数や貸し出し期限に制限は設けていない点が好評の理由の一つです。
また最近は利用者との交流も増えています。シベリア抑留から帰ってきた父の「形見」と言って、日本文学全集を寄贈する男性の話を聞いたり、利用者の方と好きな作家について話し合ったりなどするようになってきました。コロナが落ち着いたら、本を通して自分の思い出や自分について話してもらうイベントを開いて、世代を超えたコミュニケーションを図りたいと思っています。
喫茶店で編み物教室 人が人を呼んで親しまれる場に
事例紹介③はるのうたまちまちライブラリー(兵庫県芦屋市)
発表者 八幡圭子さん
大学図書館に約20年勤めた後、2020年6月に喫茶店の開店と同時にまちライブラリーを始めたところです。夫婦で店を営むにあたっては、写真の展示やワークショップの開催などを通して、色々な人が個性や才能を生かしてつながる多目的の店にしたいねと話し合いました。コロナの中でイベントは難しいのですが、店を気に入ってくれた近所の編み物の先生が店で少人数のニットカフェを開いてお客さんを呼んでくれています。また時間に余裕があるので、毎日インスタグラムとフェイスブックで発信していたところ、それを見た書道の先生がお店に来てくれて、ニットに興味があるという話になって……と、少しずつ人と人のつながりが増えていっているところです。
読書会通じて交流 これからは自分と社会の課題解決が目標
事例紹介④まちライブラリー@Co・Lab香芝(奈良県香芝市)
発表者 梶正人さん
子どもたちが輝く街をめざして、2019年7月に一人でまちライブラリーを始めました。また人生に影響を与えた本を「影響本」と呼んで、その本から未来を創造し、著者とのマッチングを目指しています。これまでに読書会の開催実績は30回で、他の方の読書会には50回参加しました。読書会には様々なスタイルがあり、早朝5時半から開いたこともあります。その様子はホームページで発信しています。これからはSDGs(国連が定める持続可能な開発目標)をテーマに、自分の課題解決と社会の課題解決を目的にした読書会を開いていきたいと思っています。
寄贈本の扱い、みんなどうしてる?
事例紹介をしたオーナーへの質問では、「寄贈本の中には、かなり古いものなど扱いに困るものはなかったですか?」との声が上がるなど、寄贈本の取り扱いはオーナーの皆さんの悩みの一つのようです。これに対して、なんぶまちライブラリーの福山さんは「そういう場合は正直にお伝えして、こちらで処分することに了承してもらっています」と答えました。
また、事例紹介③に登場した、八幡さんは喫茶店でまちライブラリーをしているため本棚のスペースが限られているとのこと。「申し出はありがたいけれど、『いただいても、どうしよう……』という本もあります」と悩みを明かしました。対応策として、別のオーナーは「私の置きたい本以外は受け取らないようにしています。『寄贈本は、こういう系統の本が良いです』という考えを発信して、利用者が『これはどうですか?』と提案する形でうちは成り立っています」と話しました。
まちライブラリー、分かりやすく説明するには?
また、様々なスタイルのまちライブラリーが存在するので、「説明が難しい」との声も上がりました。これに対しては、まちライブラリー代表の礒井純充さんが「どんな解釈でもいいですよ」と笑顔で回答。続けて、礒井さんは「いかようにも解釈できる点がまちライブラリーの一番良いところ。逆に言うと曖昧な定義になるけれど、どのまちライブラリーも、そこで携わる人たちの思いや心地良いところに収まっているように思います。あまり説明にこだわる必要はないのではないでしょうか」とアドバイスを送りました。
他にもイベントの集客方法についての質問が出るなど、抱えている悩みをシェアする場となりました。オーナーズフォーラムはこれからも定期的に開催予定です。次回のレポートもお楽しみに。