「まちライブラリーを始めたことで、さらに地域に開かれた存在になりました」、「マンションの生活では横のつながりが少ないけれど、まちライブラリーでは交流が生まれています」――。7月7日にオンラインで開催した第6回オーナーズフォーラムの事例紹介では、マンション内で展開するまちライブラリーと、障がい者向けの日中一時支援事業所内のまちライブラリーのスタッフの方が登場しました。それぞれの活動によって生まれた人や場所の変化について、参加者は熱心に聞き入りました。
マンション内のライブラリー 「図書係」が毎日活動
最初の事例紹介は、埼玉県ふじみ野市のマンション内にある「まちライブラリー@オハナふじみ野上野台ブロッサム」の小林義之さんが行いました。マンションは約400戸あり、30~60代のファミリー層の約1200人が住んでいます。まちライブラリーはマンションの共用棟の中にあり、原則、居住者の方のみが利用するスタイルです。2014年にマンションが竣工し、当初は30冊ほどあった本をきちんと管理したいという思いから、まちライブラリーの開設に至ったと説明しました。運営にあたっては、マンションの管理組合の予算を充てています。また、まちライブラリー提唱者の礒井純充氏のアドバイスを参考にしたといい、小林さんは「礒井さんに『誰かが本棚のお世話をしないと荒れてしまうよ』と教えてもらったので、毎日スタッフがライブラリー内を確認する体制を取っています」と話しました。図書係の選任は管理組合で決めていて、合計6人で運営しています。本は居住者からの寄贈によるもので、約1300冊まで増えました。
感想カードを掲示 子どもたちが競って投稿
本の貸し出しは24時間可能で、利用者自身が貸し出しカードに書き込んでいます。貸し出し数を見ると、新型コロナによる最初の緊急事態宣言が発出した2020年春が突出して増加し、その後は減少しました。この変化について小林さんは「緊急事態宣言をきっかけにまちライブラリーの存在が知られるようになりました。宣言後は、借りるよりも、その場で絵本を読んで帰る親子の姿を毎日見かけるようになりました」と説明しました。また、マンションには自治会がなく、住民同士のコミュニティ活動はありません。そのような状況で、まちライブラリー内では交流が生まれているそうです。「私自身も含めて、妻や知人もライブラリーをきっかけに住民と交流しています。同世代の子どもを連れてきたお母さん同士で仲良くなることも多いです」と話し、まちライブラリーという場所があることで、住民同士のつながり作りに繋がっている様子を伝えました。
また、小学生の利用が多く、読んだ本の感想を書いてライブラリー内に掲示することが子どもたちの楽しみになっています。感想を書いた子どもが、友達に掲示板を示しながら「これ、僕が書いたんだよ」と話すと、その友達は「僕も書きたい」と言い出し、競うように本を読んで感想を書くという微笑ましい様子が見られます。今後の取り組みについては、ライブラリーでのイベント開催のほか、マンション内でライブラリーを運営している首都圏のマンションとの交流イベントを企画していることを紹介しました。
~チャットでのコメントより~
「感想をかいてくれたら展示するよってアリですね」
オハナふじみ野:「 子どもたちで自慢しあう場面を何回も見ていますが、ほほえましいです。同じ本でも感想が違うんですよね。その感想の違いに子供たちが自分たちで気づいて、「じゃあ次はこの本を読もう」「こっちがおもしろかったよ」という本を通じた交流につながっています」
地域に開かれたライブラリー 障がいの相互理解進む
次に事例を紹介したのは、津市の障がい者向け日中一時支援事業所およびフリースペース「コミュニティハウスひびうた」内で運営している「まちライブラリー@ひびうた文庫」の村田奈穂さんです。コミュニティハウス内に本を置き始めたのは、コミュニケーションが苦手な障がいのある人たちに、ハウス内で心地よく過ごしてもらいたいという思いからでした。当初は職員が選んだ本を置いていたものの、2019年にまちライブラリーを始めてからは地域の住民の人たちからの寄贈を受け付け始めました。なおライブラリーは、地域の人の利用も可能です。
まちライブラリーが担っている役割として、村田さんは3つを挙げました。1つ目は「人と人、人と場所をつなげる」です。「まちライブラリーを始めたことで、障がいが無い人の来場が増え、障がいがある人と会話する場面を多く見るようになりました。お互いの理解が進み、この場所がさらに地域に開かれた存在になったと感じています」と話しました。2つ目は「少し、生きやすくなる」です。利用者の中には、精神障がいを抱える人が多く、ライブラリーの本を通して家族との関係や自分の障がいと向き合っています。ある利用者は「この本を読んで、『僕の病気は治るかもしれない』と初めて思った」と村田さんに伝えたそうで、村田さんは「その言葉を聞いて、文庫の管理者としてぐっときました。生きにくさを感じている人たちの拠り所になれているのかなと思います」とやりがいを紹介しました。また、薬の影響などで本から遠ざかっていた人が、まちライブラリーで本を手に取ったことをきっかけに再び本を読むようになったこともあり、本がある場所の大切さを実感しています。
貸し本棚や独自の読書会 アイデアイベント続々
3つ目の役割は「輝ける場面をつくる」です。まちライブラリーで働く障がいがあるスタッフは、本が好きで、いきいきと活動しています。このスタッフについて村田さんは「本の紹介文を書く仕事もお願いしていて、同僚や利用者から注目されることで自信を持つようになりました」と変化を話しました。さらに新たな取り組みとして、昨年10月から無料で「貸し本棚」を始めました。希望者に1箱を貸し出して、お気に入りの本や雑貨、自分で描いた絵などを自由に展示してもらっています。1クールを3か月間として6人を募集し、期間が終わると、貸し本棚オーナー座談会を開いて交流をはかっています。他にも、チェーホフやシェイクスピアなどの海外文学について語り合う「ひびうた大学文学部」や戯曲を読む会などのイベントを開き、利用者に人気を呼んでいます。
~チャットでのコメントより~
「本とコーヒーが届くってうれしいですね」
「貸し本棚と座談会いいですね」
「話が弾みそうですよね」
「夜のまちライブラリー、近くだったら是非行きたいです^^」
「 300円でコーヒー飲みながら読書なんていいですね」
「貸出期間1ヶ月の理由もゆっくり読んで頂くってことなんですね」
ブックフェスタ・ジャパン 全国各地と繋がる機会に
フォーラムの後半は、まちライブラリーのスタッフより、9月18日~10月24日に開催するイベント「まちライブラリー ブックフェスタ・ジャパン2021」についての紹介を行いました。今年は9月18、19日に長野県茅野市の茅野駅周辺でオープニングイベントを開催します。期間中は古本市や植本祭を開くほか、「一箱古本市」を提唱する南陀楼綾繫さんや元県立長野図書館長の平賀研也さんらによるセミナーなどを行う予定です(※セミナーの様子はオンライン配信します)。
ほかにも、9月23日にはオーナーズフォーラムのスペシャルバージョンとして、まちライブラリーに関心がある人は誰でも参加できるオンラインフォーラムを開いたり、10月17日には、ドイツ在住のジャーナリストで著書に『ドイツのスポーツ都市 健康に暮らせるまちのつくり方』がある高松平蔵さんを招いてのオンラインセミナーを実施したりなど様々な企画を考えています。まちライブラリー代表の礒井純充氏は「今日のフォーラムも北海道や岩手、福岡など各地の方にご参加してもらっていますが、今はオンラインで国内外とつながることができます。みなさんとたくさん意見交換をしたいと思っているので、イベントの連携など気軽に相談してください」とオーナーに呼びかけました。
アンケートへのご回答、ありがとうございました!(回答12件)
Q1 イベントの満足度を教えてください。1.非常に不満 2.不満 3.普通 4.満足 5.非常に満足の5段階
Q2 イベントで参考になったことや、印象に残ったことを教えてください。
・オハナさんの感想文展示やひびうたさんの貸し本棚や貸出期間1ヶ月などたくさん参考になりました。
・活動状況が具体的に紹介されていて、参考になる点が多々あった。
・ライブラリーオーナーと繋がり、話を聞けるということ自体がとても良い体験でした。
・オハナ文庫さん、貸出数をしっかり記録されていてすごいと思いました。マンション住民のみなさんが憩える場所があっていいなと思います。
・今回もありがとうございました。
オハナ文庫さんはマンションの管理組合で運営されているとは、住民の方がとっても羨ましいです。
そして以前からいろいろなイベントがあり楽しそうだなと思っていたひびうた文庫さんのお話も聞けてよかったです。地域の方と傷害のある方をつなぐ居場所として機能されていて素晴らしいですね。
ブックフェスタジャパンの概要も教えて頂き、ますます楽しみになってきました。
ひと箱古本市にも参加してみたいですし、どこかのイベントでオンラインでつながることができたら嬉しいです。
・初めの意気込みはどこへやらその上コロナ禍で、まちライブラリーいのこうの家の活動も大停滞しておりましたが、思い切って参加させていただき、これからの進むヒントをいただきました。ありがとうございました。
画面が?????ですみませんでした。初めての試みでどこを押せばお話ができるのか、
私の顔が写るのかも?????で、大胆不敵な参加でご迷惑をおかけしました。
・本の貸し出し方やスペースの活躍方法など、それぞれが工夫されていたので、その場所に合わせた打ち出し方や独自イベントなど開催したくなるようなヒントをいただきました。
・ブックツーリズムという考え方は新しい地域づくりの可能性を感じました。
・どんな方がどんな運営をしているのか一端を知ることができました。
・まちライブラリーの発表が参考になりました
・オハナ文庫さんの寄贈本の扱い、感想文の掲示など。ひびうた文庫さんの貸本棚サービスのしくみやイベント。
・■まちライブラリー@オハナふじみ野上野台ブロッサム
24時間体制
子供達の感想文が連鎖を生んでいるところ
漫画を禁止している
首都圏近隣エリアのスマートな空気感の中で、家族や子供がつくる温かなコミュニケーションのお話が印象に残りました。
■まちライブラリー@ひびうた文庫
夜ライブラリー
障害者就労支援
珈琲が美味しそう
色々な試みをされていて素晴らしいなと思いました。どちらもスタッフの努力で施設をより良くさせている印象を持ちました。見習いたいです。
参加された各ライブラリーのオーナー様・スタッフ皆様の雰囲気も良く、各地でどんなコミュニケーションが生まれているのか拝見できて楽しかったです。
Q3 イベントをお知りになった媒体を教えてください(複数回答可)。
Q4 今後のオーナーズフォーラムで取り上げて欲しいテーマや開催する曜日・時間帯、ご自身が発表したいなど、イベントにまつわるご要望を何でもお知らせください。
・去年も少ししていただいたんですが、2021年度版のウィズコロナのイベントのありかた、集客について議論できたらいいなと思います。
・今は視聴させていただくので、精いっぱい。
・仕事が7時過ぎに終わります、僕にとっては今日のような時間は入りやすいです。貸本だなを始めようと思っています。
・それぞれのライブラリーの貸出数No.1の書籍を教えていただければ面白いなと
思います。
・まちライブラリーをこれから始めたい人に対して、9月のオーナーズフォーラムを公開するというのはとても良い試みだと思います。
・各ライブラリーさんの奮闘されているお話から、良いヒントがいただけそうです。
・今回のように、様々な事例を伺いたいです。とくに、まちライブラリーをどう認知してもらっているか(認知されるまでの経緯など)を聞きたいです。
・貸本棚や一箱古本市などをテーマにした運営方法など興味があります
・他の拠点の事例や地域に存在を知らせる工夫などをもっと知りたいです。
・9/18,19茅野に行きたいです❗
・時間は夕食の片付けも終わったあと20:00~21:30くらいがいいです。
・夜の開催を希望します