■第9回まちライブラリーオーナーズフォーラムレポート
「本の管理はどうしてる?」「本を集める方法は?」――。
各地で活動するまちライブラリーのオーナーたちが運営のアイデアや悩みを共有するオーナーズフォーラムを2月16日にオンラインで開きました。前半の事例紹介に登場したのは、東京都北区でクラウドファンディングをきっかけにまちライブラリーを始めた元会社員と、ロンドンで日本語の本を集めたライブラリーを開設したデザイナーです。仲間の集め方や場所に込めた思いなどを、参加者約20人が熱心に聞き入りました。後半では「私たちの本の集め方」をテーマに、それぞれのオーナーが工夫やこだわりについて語り合うなど充実の90分間の様子をレポートでお伝えします。
まちライブラリー@JimoKids石蔵秘密基地(東京都北区)
子どもも大人も行きたくなる「秘密基地」 クラウドファンディングで実現
最初の発表は、まちライブラリー@JimoKids石蔵秘密基地(東京都北区)のオーナーの畑川麻紀子さんです。小学生と中学生を育てる母でもある畑川さんが目指すのは、子どもから大人まで様々な人が出入りできる場所です。そこで、まちライブラリーがある1階は子どもが本を読むなどして過ごせるほか、子どもの習い事講座や大人向けのワークショップなどを開催し、2階は大人のコワーキングスペースとして運営しています。会社員だった畑川さんがこのような地域の拠点を作ったきっかけは、子育てと仕事の両立に悩んだことでした。「職場に行っていると、地域のことを全然分かっていませんでした。仕事中に子どもが泣きながら電話をかけてきたことがあり、子どもが『行きたい』と思う場所が必要だと実感しました」と振り返ります。
そこでクラウドファンディングを利用して、築60年の石蔵(2階建ての一軒家)を地域の交流スペースにするための改修費用などを集めたところ目標金額を達成することができました。寄付のお礼を数種類用意し、その一つに「寄付した人のお気に入りの1冊を交流スペースの本棚に置きます」と案内したところ、33人が賛同してくれました。ただ本を置くだけではなく、寄付した人のその本に対する思いなどのメッセージを付ける仕組みで、畑川さんは「建物の一角に思いのこもった本があると、誰かと誰かを繋げるに違いないと思っていました」と話します。その後、知人を介して「まちライブラリー」の存在を知り、まちライブラリーに登録しました。蔵書は増えていっており、今では放課後の子どもたちが、自由に立ち寄って本を読んで帰っていきます。
「作戦会議」で悩み共有 ともに考える仲間がゆるりと増加
とは言え、畑川さんの取り組みが最初から順調に進んだわけではありません。何度も地域の人たちと「作戦会議」を開き、自分が困った出来事などを振り返りながら、どんな機能を持つ場所があれば、子どもや大人、地域の人たちみんなが幸せになれるかを考えました。回を重ねるごとに、実は同じ思いを持った人たちがたくさん存在していることに気が付き「思いを口に出すことで、ゆるりと仲間ができていきました」。現在は、高校生や子育て中の人や、子育てがひと段落した人など個性豊かな10人ほどがサポートメンバーとして運営やイベントの企画などを主体的に考えてくれています。まちライブラリーについては「本の存在は知識のシェアになっていて、本のおかげで色々な連鎖が起きています」と話し、多様な人たちが刺激し合う場となる可能性を感じていることを紹介しました。
日本語ライブラリー:ロンドン
コロナ禍、書店閉店…… 日本語本の魅力を共有したい
続いての発表は、日本語ライブラリー:ロンドンの安積朋子さんです。安積さんは30年前に渡英し、家具やインテリアなどのデザインを手掛けています。元々読書が好きで、イギリスにある日本の本を扱う古書店で買ったり、一時帰国の際にスーツケースに詰め込んだりなどしていたところ、デザインや建築の本を中心に小説やエッセイなど蔵書がどんどん増えていきました。そのような中で、新型コロナウイルスの感染拡大によって安積さんのスタジオに人が訪れなくなったことから、スタジオを有効に使えないかと思うようになりました。また、ロンドンで日本語の本を買うと割高なことに加えて、日本の古書店が閉店したため、「私が日本の本に癒されたように日本語を読みたいという人が集まってくれるはず。自分の本をたくさんの人と共有したいと考えていました」と話します。そのころ、まちライブラリー提唱者の礒井純充氏の著書『本で人をつなぐ まちライブラリーのつくりかた』に出会い、ライブラリーの開設を決めました。
ヨーロッパに本の発送サービス開始 利用者は買うよりお得
2021年11月にオープンしたもののコロナの影響により、まだ訪れた人はいません。そこで試験的に、ヨーロッパにいる友人たちから本を借りたいという要望があれば発送する取り組みをスタート。利用者が蔵書リストの中から読みたい本を選ぶと、安積さんは本の重さを量って送料を連絡。送料が振り込まれたら発送し、読み終えたら送り返してもらうという流れで、利用者は送料のみを負担するというものです。オランダとのやり取りがスムーズに進み、手応えを感じている安積さんは「この方法を使うと、利用者は買うよりも安く済むということが分かりました。ヨーロッパで暮らす日本人や、期間限定の駐在で来ている人たちなど、様々な人たちに利用してもらえたらと思っています」と話しました。また現地では、コロナによる移動制限が緩和されてきたため、今後は本を持ち寄ったトークイベントなどを行う予定です。
「本の集め方」について:各オーナーの皆さんの取り組み
本棚に寄贈依頼の貼り紙 管理せずとも利用者のぬくもりを実感
フォーラムの後半では「本の集め方」について、参加したオーナーの皆さんにそれぞれの取り組みを紹介してもらいました。巣箱型の本棚を運営し、本棚に寄贈をお願いする掲示を出している「まちライブラリー@サクラティエ」(京都府綾部市)の重本晋平さんは「本の整理をすると毎回、中にある本が変わっています。借りていく人も寄贈してくれる人もいるんだなと実感しています」と話しました。一方で「貸し出しカードは作っていないので、本の管理が課題かなと思っています。他のオーナーさんはどうしていますか?」と問いかけました。
これに対して「菱屋西 染め色遊び」(大阪府東大阪市)の伊藤千晶さんは、コロナの影響で活動できなかった際に巣箱型の本棚に、伊藤さんのLINEのQRコードを案内した事例を紹介しました。利用者は本を借りたら伊藤さんにLINEでメッセージを送るというもので、「LINEであれば、利用者はやり取りがしやすいようでした」と経験を話しました。また「まちライブラリー@ひびうた文庫」(津市)では、持ち込みも持ち出しも自由にできる絵本コーナーに取り組んでいます。村田奈穂さんは「子育て中の方から『絵本は値段が張るものの、子どもが成長すると使えなくなって困る』と聞いて、自由に借りてもらいつつ、読まなくなった絵本を持ってきてもらうという仕組みを始めました。管理はしていないのですが、ちゃんと運用できているので、うちのライブラリーらしい取り組みだなと思っています」と話しました。
植本祭 「誰かにこの本を届けたい」の思いを大切に
まちライブラリーの取り組みとしておなじみの「植本祭」で本を集めているのは「つるがしまどこでもまちライブラリー@鶴ヶ島市役所」(埼玉県鶴ヶ島市)の砂生絵里奈さんです。「コロナの前は、植本祭のイベントを開いていました。寄贈しても構わないお薦めの本をみんなの前で全員が紹介した後、オリジナルの感想カードに一言書いてもらって本棚に植本するというものです。回を重ねて、最終的には200冊ほど集まりました」と振り返りました。植本祭について、まちライブラリー提唱者の礒井純充さんは「植本祭の由来は『植樹祭』をもじったものです。正しいやり方というものは無いので、好きに解釈してもらって問題ありません。自分の本を持ってきてもらうことで、その人にとってその場が自分の場所だという意識が根付きやすいと思っています。植本祭の参加者が抱いている『誰かにこの本を届けたい』という気持ちを大事にするといいのではないでしょうか」と話しました。
ユニークな取り組みとして、テーマを決めて本の寄贈を呼びかけているライブラリーもあります。「まちライブラリー@ちとせ」(北海道千歳市)では、「まなブックリレー」と題して使い終わった参考書の寄贈を呼びかけています。以前、同市にあったまちライブラリーは学生が自習室として利用することが多く、大学受験の過去問題集の赤本などを引き継ぐ慣習があったため、今年1月にオープンしたライブラリーでは正式に寄贈の案内を始めています。
大量に寄贈の依頼 対応に悩むオーナーにアドバイス
一方で、本を集める際の悩みも聞かれました。「まちライブラリー@JimoKids石蔵秘密基地」の畑川麻紀子さんは「『大量に持っていきたい』という人がいます。蔵書を増やしたいという思いはある一方で、丁寧に本を集めたいという思いもあって悩ましいです。すべての本にメッセージを書けない場合は受け取らないほうがいいのかなとも思うのですが……」と相談しました。これに答えたのは、1万6千冊以上の蔵書を持つ「まちライブラリー@もりのみやキューズモール」(大阪市中央区)の川上律美さん。「たくさん寄贈をしたいと連絡があった際は『手で持って来られる範囲の冊数でお願いします』と答えています。またライブラリーの雰囲気を知ってもらうためにも、現地に来ていただくようお願いしています。不要な本ではなく、みんなに共有したい本を置いてほしいことを伝えると、何冊かだけを選んで置いていく方もいます」とアドバイスを送りました。