訪問&報告者:宝水幸代
訪問日:2023年3月22日
世界のはしっこBook & Field(2024年5月31日閉鎖)
古くから港町として栄えて来た、兵庫県神戸市。北野の異人館や旧居留地など、異国情緒のあるまちとしても知られています。そんな神戸市の西側に「世界のはしっこ Books & Field」はあります。
神戸の異人館といえば北野が有名ですが、映画のロケ地にもなったジェームス邸や、旧グッゲンハイム邸など北野以外にも多くの異人館が残っています。
いかにも神戸らしい旧な坂道や階段が多い地域、世界のはしっこは、そんな急な傾斜地にあります。
今回は先が見えないほど急勾配、かつ長い階段を登ってみました。途中で休憩を挟みながらのんびりいきましょう。
「世界のはしっこ」に出会う場所
2021年6月にオープン。建築家の秋松麻保さんとグラフィックデザイナーのご主人・太地さんが、築40年の建物をリノベーションして作られました。大きな窓が開放的な、すてきなまちライブラリーです。
約1200冊の蔵書は絵本に児童書、小説に漫画など実にさまざまな。どれも興味深いのですが、とくに気になったのが図鑑。
近所の子どもたちが世界のいろいろなものに触れる機会になればいいなという思いもあるそうですが、最近の図鑑はイラストや写真も素晴らしくて大人が見ても面白いものがたくさんあるのだとか。
「これなんか面白いですよ。筋肉系、骨格系、消化器系、循環器系などが切り絵で表現されているんです。重ねて見ると人体になっているんです」
「ただ、小さい子は破ってしまいそうだから大きくなるまでお預けかな。笑」
秋松さん夫妻には、昨年12月に赤ちゃんが産まれたばかり。この図鑑をひもとける日が楽しみですね。
ところで、なぜ世界のはしっこという名をつけたのでしょうか?
「世界にはしっこはないけれど、自分の世界にははしっこがある。
そのはしっこまで行って、人と話したり、本を読んだり、いろいろなものと出会うことで自分の世界が広がっていく。そんな『はしっこ』にたどりつき、出会いを重ねる場所になればいいなという想いを込めました」
ささやかな「居場所」を作り続ける
「昨年11月に礒井さんとお話しした際、まちづくりについて『延々と続けることがまちづくり。完成を求めた時点で終わる』というお話を聞いたんです。ここも同じで、作ったからゴールなわけではなくて、ささやかな日常を続けていくことが大切なんじゃないかなと思います」
作るまでのプロセスと、作ってからのプロセス。
この場所からは、そのどちらも丁寧に形作られているのが伝わってくるようでした。
取材に訪れた日、近所の女の子たちとカードゲームに興じていた麻保さん。
「よく中学生たちとお茶会開いたりしています。手作りのお菓子を持って『アフタヌーンティーしよ〜』って来てくれる子たちもいて」
近所の子どもたちとは「対等な友だち関係」だといいます。
ご自身の子ども時代にも、近所にそういう存在の大人がいたのだそう。
「よく入り浸っている場所があったんですが、そこでは大人が自分たちを対等に扱ってくれたんです。子どもだからと適当にあしらったりしない。そんな大人の友だちと話しているうちに、自分では乗り越えられないと思っていた悩みも、大した問題じゃないなと思えるようになっちゃう」
自分自身も「自分は子どもやから」と変に甘えるのではなく、一人の人として居られたことが心地よく、救いになっていたそうです。
「そういう場所があったらいいなと思って、いまここがあるという感じ。親じゃない、先生でもない、大人の友だちになれたらうれしい」
まちライブラリーの上の階には秋松さん夫妻のオフィスがあり、赤ちゃんも1日の大半をここで過ごしているそう。
遊びに来てくれるみんなにとっても末の妹分ができた感じですね。
「そうそう。みんなでかわいがってくれて、とても助かってます」
往路では大変な思いをした階段でしたが、登ってみなければこの景色には出会えない。
ささやかながら、自分の世界のはしっこに挑戦できたような気持ちになりました。