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うさみみ まちライブラリー 探訪記

訪問&報告者:益田和美

訪問日:2023年5月29日

うさみみ まちライブラリー

 

「うさみみ まちライブラリー」があるまちは、伊豆半島の温泉地としてメジャーな伊東市。と言っても、多くの温泉旅館が軒を連ねる伊東駅周辺のエリアではなく、その隣の「宇佐美駅」から徒歩3分ほどの通り沿いにあります。周辺はのどかな住宅街で、交通量も多くはありません。

オンボロだけど心地よい場所

見学・取材を申し込んだところ、「想像以上にオンボロですがよろしければ」とオーナーのうさみみさんからお返事をいただきました。まちライブラリーの公式サイトに掲載されている写真では実際よりキレイに見えるので、そのようにおっしゃったのだそうです。

確かに、築50年余りの長屋はうさみみさんの言葉通り・・・と言えなくもないですが、中に入ると、建物自体の古さから醸し出されるなんとも言えない懐かしいような雰囲気が、とても居心地良く、ここで本を眺めたりぼんやりしたりして過ごしたいと心から思える空間でした。

ライブラリーのスペースは四軒長屋のうちのひとつ

ペパーミントグリーンに塗られた壁、古い英字新聞が一面に貼られた壁、木箱のテーブルや学校で使われていたであろう椅子、そして、近隣の方にいただいたというこれまた綺麗なミントカラーのソファ。どのような経緯でこのライブラリーがこのような姿になったのか、それは後ほど改めてご紹介します。

蔵書は、地域の郷土資料をはじめ、ビジネス系やデザイン系のものから暮らしの実用書や小説まで様々なジャンルのものがあり、寄贈も多いそうです。特に目を引くのは黄色い背表紙のナショナルジオグラフィックのナンバー。古いものでは1995年発行のものもあります。また、子ども向けの本もたくさんあり、地元の作家さんの魅力的な作品が揃っています。

棚にずらりと並ぶナショナルジオグラフィックのバックナンバー

利用される方は、近所に住む中高年の方や親子連れ、中高生など老若男女。うさみみ まちライブラリーの隣の区画に中学校があり、小学校と幼稚園も徒歩2〜3分の場所にあるので、子どもたちにとっては立ち寄りやすい絶好のロケーションです。おやつを食べてもいいし、本を読まずにのんびり休憩してもいい、誰もが気軽に入れるやさしい場所。「思い思いに過ごしてくれればいいんです」とうさみみさんは語ります。

「うさみみ」があるまち

うさみみさんが、宇佐美のまちなかを案内してくださいました。

駅前から海に向かってほぼまっすぐに延びた商店街を抜けると、海岸までは10分足らずの距離。

緩やかな坂道を下る商店街には、シャッターに大きなクジラの絵が描かれたお店や宇佐美エリアで唯一の本屋さんもあります。昔から代々商いをしてきたであろう店舗もあり、ゆったりと時間が流れているような街並みです。

宇佐美の浜 右手は伊東駅方面

また、駅前には、江戸城築城の際に宇佐美で切り出された石が石垣に用いられた、という案内がありました。三代将軍までの間に、築城のために必要な石の大部分が伊東から運ばれたそうです。江戸時代初期の宇佐美村は幕府の直轄地で、伊豆東海岸の村の中では石高が一番多い村であったという記録が残っています。

うさみみさんが集めた地域の歴史に関する資料など

そんな宇佐美のまちを心から愛するうさみみさんが、まちライブラリーを開くことになったのは、流れと出会いとうさみみさんの思いがゆるやかに交差したからなのかもしれません。

 

「うさみみ」がまちライブラリーになったワケ

うさみみさんは、ここ宇佐美のまちで生まれ育った方ですが、高校卒業後に東京で進学し、卒業後はそのまま東京で働いていました。数年前にお父様が病床につかれたタイミングで宇佐美と東京を行き来する生活となり、その後Uターンされたそうです。そして、今ライブラリーがある長屋は、お父様から引き継がれたものです。

以前、この部屋には学習塾がテナントとして入っていました。手狭になったので塾が別のスペースに移転した後、うさみみさんが地域活動を始めるにあたり事務所として使うことになりました。その際に、あえてリフォームせず、学習塾時代の姿を残すことにしたそうです。

ペパーミントグリーンの壁は、塾当時の生徒さんたちがペンキで塗ったもの。英字新聞の壁も生徒さん作。壁紙を貼り替えようかという話も出ましたが、雰囲気が好きという声が多く、そのまま残すことになりました。入り口から向かって左手にある壁にしっかりと造りつけられた本棚は、塾を移転する際に重くて持っていけなかったので、そのままになったもの。塾時代はたくさんの参考書や問題集などが並んでいたのでしょう。

木製の郵便受けのような貸出箱も味がある

「うさみみ まちライブラリー」は、はじめから図書館を目指して作られた場ではありません。空きスペースとなったこの場所を地域に開かれた場として活用したい、といううさみみさんの思いから、「おもちゃ図書館」「高齢者の方が集う場」「おしゃべり、学習、休憩、なんでもありの居場所」など、この3年あまりの間に、様々な活動に利用され、また最初の一歩をスタートする地域の人たちのために活用されてきました。その場所に、「本を置くことにした」というのがまちライブラリーの始まりなのです。「この場所をみなさんに使っていただくようになってから、ありがとうと言う機会が増えました」と話すうさみみさん。

今では、SDGsを視野に中学生たちが設立したボランティア団体「伊豆・すくも街づくり推進会」の拠点として使えるよう、ライブラリーの隣の一室を中学生に開放しています。集まってみんなで宿題をしていることもあるそうです。

お話を伺っている間に、ご近所の方が本を返しに来られました。うさみみさんは日頃はお仕事をしているので、基本的に無人運営しているため、「あら、いらっしゃったのね」と言いつつうさみみさんと二言三言交わしたその女性は、「ありがとう」と去って行きました。

「『ありがとう』がたくさんある場所」がまさにここ、まちライブラリーなのだと感じられる瞬間に、その場にいられて幸せな気持ちになりました。

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