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みんなの図書室ほんむすび 探訪記

訪問&報告者:宝水幸代

訪問日:2023年4月19日

みんなの図書館ほんむすび

大阪市阿倍野区。上町台地の南に位置し、古くから交通の要衝として栄えてきたまちです。

そんな阿倍野区に「みんなの図書室 ほんむすび」はあります。

 

“大阪五低山”のひとつ、標高14mの聖天山にある聖天山公園に隣接した築70年の木造住宅をリノベーションし、2022年5月にオープンしました。

運営者である一級建築士の起田陽子さんの設計事務所に併設されています。

ほんむすびは、シェア型の私設図書館「みんとしょ型」のまちライブラリーで、約40人のオーナーさんが日替わりで店番をされています。

 

人々の「日常」に寄り添うために建築士の道へ

緑ゆたかな公園のそばにある「ほんむすび」さん。

中に入るとあたたかな木の香りに包まれました。

一級建築士である起田さんには、理学療法士というもうひとつの顔があります。

建築士になる以前、約10年間にわたり病院勤務をされていたのだそうです。

 

いったいなぜ建築士になろうと考えたのでしょうか?

 

「病気を放置していた方に『なぜここまで放っておいたのだろう』と思ったり、退院する方に『このまま家に帰って生活していけるのだろうか』と感じたり。さまざま思うことはあっても、医療従事者の立場では関わりに限界があると感じたんです」

起田さんは、病院は非日常だと言います。治療やリハビリといった専門的なケアはもちろん重要ですが、病院の外での日常生活をいかに良いものにしていけるか。

「建築士なら医療従事者の立場を活かしながら暮らしに寄り添えるのではないかと思ったんです」

 

そして大学で建築を学び、設計事務所で実務経験も積み、一級建築士の資格を取得したのだそう。

淡々と話す起田さん。「こうしたらいいんじゃないかな?」と思いつくことはあっても、なかなか行動に移すことはできないものです。

起田さんの強さに、感嘆しっぱなしでした。

「まちの保健室」を作りたい

理学療法士と建築士。2つの経験とスキルを活かすため、建築設計事務所「Rehabilitation Design Lab」を設立。その事務所の一画に「ほんむすび」を立ち上げました。

「私の感じてきた課題は、生活の中に入っていかないと解決できない。暮らしの場を良くしたいという思いが原点なので、人の暮らしに関われる場を作りたかったんです。そんな折に『だいかい文庫』さんを知り、すぐに訪ねました」

兵庫県豊岡市にあるみんとしょ「本と暮らしのあるところ だいかい文庫」。店主の守本さんは医師として働く傍ら学生時代から「ケアとまちづくり」に取り組んでこられた方です。

 

「これだ!と思いました。ふらっと立ち寄れて、何かあったときに頼れる『まちの保健室』を作るのにぴったりだと」

 

地域で開催される健康教室などのイベントに来られるのは、もともと人の集まりや地域活動が好きな人が多く、本当に来てほしい人はなかなか来てくれない。

何もなくてもふらりと訪れることができ、困りごとがあれば聞いてくれるひとがいる。

そんな日常の暮らしに寄り添う場としてみんとしょ、まちライブラリーが最適だと感じたのだそうです。

「みんとしょにすることで、オーナーさんが日替わりで店番をしてくれます。オーナーさんそれぞれにお友だちやファンの人がいるので、よりさまざまな属性の人が来てくれることもうれしい」

本を触媒にして、まちの人々と医療従事者をはじめとした専門家がつながることができる。

今は困っていなくても、本当に困ったときには気軽に相談できる。

そんな「まちの保健室」が暮らしの中にあることは、大きな安心感になりますね。

 

思いが磁力を生む

そういえば、ここの本棚は起田さんが?

 

「この物件のオーナーが手ずから作ってくれたんです。建築士さんなんですが大工さんみたいに自分で」

みんなの図書室を作ろうと決めたものの、物件探しは難航したのだそう。

「でも、それが良かったのかもしれないです。こんなことやりたいんですって周りに話続けた結果、ここを紹介されたので」

声を上げることで、物件や人を紹介してもらったり、応援してくれる人や一緒にやりたいという人が次々と現れてきたという起田さん。

 

起田さんの強い想いや、具体的な行動が人を惹きつけるのでしょうね。

「私に何か特別な力があるわけじゃないです。みんなの力で作っている。協力してくださるたくさんのおかげです」

やはりとても魅力的な方だと思いました。

また起田さんに会いに「ふらり」と立ち寄りたいと思います。

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