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あひる図書館 探訪記

訪問&報告者:益田和美

訪問日:2023年5月29日

あひる図書館

富士山のふもとのまち 三島市にある「あひる図書館」は、三島駅から徒歩8分ほどの住宅街の中、飲食店の2階のスペースで運営されているまちライブラリーです。通りをはさんだ目の前は、国の天然記念物と名勝に指定されている庭園「楽寿園」ですので、窓の外に緑が広がります。

ダウンライトの落ち着いた空間に70区画の本棚

あひる図書館は一箱本棚オーナー制度を導入して運営されており、現在70ある本棚は全て契約済みです。一箱オーナーの申込が多く、開設当初は40棚だったものを70棚まで増やされましたが、今も待機が3か月から半年ほどと大人気です。個人契約と法人契約の枠があり、それぞれの本棚にそれぞれのオーナーさんのカードが置かれています。

天井までズラリと並んだ本棚

あひる図書館の特徴のひとつが、本棚オーナーとして契約されている方の中に、地元企業の経営者や地域で何か活動をしている、地元のキーパーソンが多いことです。その背景には、あひる図書館の運営団体である『一般社団法人ママとね』のこれまでのあゆみがあります。それについては、後ほどご紹介します。

そして、もうひとつの特徴は、店番のボランティアスタッフさんが約30名もいらっしゃることです。あひる図書館では、運営スタッフ含め、本棚オーナーさんは多忙な方が多く、店番に入れる方が少ないです。にもかかわらず、ほぼ毎日朝から夕方までオープンできるのは、「ここで店番したい」と申し出てくれる友人知人のボランティアさんがたくさんいてくれるおかげなのだと、館長の中島さんは言います。本棚オーナーになるほどではないけどあひる図書館に関わってみたいという人にとっては、お店番は面白いポジションのようです。

 

運営団体『ママとね』はこうしてできた

各地のまちライブラリーの成り立ちは様々ですが、運営主体が法人の場合は、ライブラリーができる前から何らかの事業を展開していてその事業を行うためのリアルな「場」が先に存在していた、というケースが比較的多いのではないでしょうか。例えば、会社のオフィスや医療・福祉などの施設、カフェやコワーキングスペースなどです。けれど、『ママとね』の場合はそうではありませんでした。2014年に子育て支援の活動を開始して以来、2021年のライブラリー開設までは、固定した場を持つことなく、インターネットを介した情報提供を軸にイベントを開催したり冊子を発行したりしてきました。そういった活動をスタートされたきっかけは、館長であり法人の代表でもある中島さんご自身の経験にあります。

「生後4か月の赤ちゃんを抱えて、夫の転勤で三島市に引っ越してきた私には、知り合いがいないだけでなく情報源もなく、とにかく孤独だったんです」と中島さん。東西に広い静岡県はよく、東中西と3つのエリアに区分されるそうですが、東部だけでも20もの市町があり、おのおのが小規模であるため、行政が発信する情報だけでは足りない、という課題が。「東部の情報を横断的に網羅した子育て情報のプラットフォームが必要ではないか」と考えた中島さんは、同じく他の地域から三島市に引っ越してきたママさん仲間の友達と一緒に、東部の子育て家庭のための「ママとね♡」という情報サイトを立ち上げたのです。

活動を継続していく中で徐々に幅が広がり、地元のキーパーソンを紹介してもらったり、多くの企業・団体等から協賛を得られるようになりました。そうした経緯があるため、あひる図書館の本棚オーナーさんには経営者の方が多いのです。

絵本も雑誌もビジネス書も

”場”を開くことになったワケ

「2020年に、どうしてもリアルな”場”が必要になったから」と中島さんは話します。それまでは、リアルな場を持つことのコスト面などを考えると、わざわざ事務所を置いたり常設スペースを作ったりする余裕はなく、情報提供を充実させていくことに力を入れていたそうです。そして、イベントの際には規模や内容に適した場所を単発で借りれば十分でした。しかし、新型コロナの緊急事態宣言に始まった「外出自粛」の日々は、子育てに奔走するママさんやパパさんや子どもたちから、集いの場を完全に奪ってしまいました。行政が実施する子育て関連の講習やイベントの中止はもちろんのこと、民間団体も自由に集まることが許されないような状況が数カ月以上にわたり続きました。

中島さんは、「これは非常事態。ママたちが行き詰まってしまう」という危機感を募らせたそうです。そこで、親子だけでなく、おとなも若者も誰でも気軽に立ち寄り、過ごせる場を作ることが急務だと考えた『ママとね』のみなさんは、本を読めるスペースを開くことにしました。

名前はあひる図書館。従来から団体のシンボルマークとして用いていたあひるの親子のイラストから赤ちゃんあひるをはずし、シンプルに本を持つあひる一羽にしたそうです。親子のためだけの場ではなく、年代を問わず利用でき、交流できる場であることを象徴しています。

1階の玄関前にもこのあひるさんの看板が

 

運営方法についての検討を重ね、物件を探し、ようやく見つけたのが現在の場所。入口が少しわかりにくいというデメリットはありますが、借景が美しく、夏にはホタルも見られる源兵衛川がすぐ近くを流れるこの場所は、市街地とは思えないほど落ち着くロケーションです。

 

源兵衛川はあひる図書館から50メートルほど

 

民間ならではの自由さ

「細かいルールは設定していません」と中島さん。読書に没頭するのも自習をするのも自由ですが、おしゃべりしたりおやつを食べたりするのもOKなのだそう。「ここに来たい人がここで過ごしたいように過ごせればいい。もちろんマナーを欠く言動はダメですが、極端に非常識なことをしなければ大丈夫」

良い意味でのこの緩さは、公営のスペースでは実現しにくいことなのだと中島さんは言います。「私たちの活動は、助成金や補助金に頼るのではなく、趣旨に賛同してくださる企業さんや個人の方々からの協力で成り立っています。だから、市がやっているスペースとは違う特徴を持つのは自然なことですよね」。なんとも潔い、清々しささえ感じられるような中島さんのひと言。

この当たり前のようで今の世の中当たり前でなくなってきた自由さや寛容さが、あひる図書館の居心地の良さの根っこにあるのかも知れません。

くつろぐ館長の中島さん 何時間でも過ごしたくなるような空間

あひる図書館の開館スケジュールは、公式サイトやインスタグラムに掲載されています。

週に1~2回程度、夜にオープンしている日もありますので、三島を訪れる機会がある方は、ぜひ立ち寄ってみてください。

 

近くの庭園や源兵衛川のお散歩も楽しめます。でも、きっとあひる図書館のあまりの居心地の良さに帰りたくなくなると思いますので、時間に余裕をもって訪問されることをお勧めします!

入口は飲食店「風土」と共通 ここから2階へ

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